これは私の肝っ玉が小さいからなのかも知れないが、サーキットを一度も走った事が無い人は、初めてサーキットという場所に自分が走りに行くと周りにいる全ての人が猛者に見えて怖じ気づく事があると思う。
吃驚するような速度差で抜かれるのではとか、背後から迫ってくる車両が居る場合はどうすれば良いのかなどと、走り出す前には心配事も多い。
だが実際に走り出すと自分の走りだけで既にイッパイで、背後から来ている車両を見ていられなかったり、ポストでオフィシャルが振っている旗を見ていなかったりする。
これだけは絶対に避けて欲しいと以前に書いた。
相手の心理は解らなくても、背後から来ているクルマや旗を出している意味は知っていなければ成らない最低限。ルールは守らないとトラブルや事故が起こる。
しかしやがて慣れてソコソコ走れるようになると、若しくは思ったより周りの人たちとの速度差がなかったり、寧ろ自分の方が速かったりすると気が大きくなったり緩んだりする。
今回のスポーツ走行では信じられない行動をする奴が居た。
コースインした周回は、誰もがコース状況を把握するために何が起きても対処できる速度で慎重に走るのが常識。 しかし奴は違った。 いきなり全開で背後からやってきたのだが、その車からは『退け』という気迫とは違う暴君の雰囲気だけが漂っていた。
危ない奴だなと思って見ていたらバックストレートの前で前車を抜き倦ね、私と立上りで併走となったのだが、自分の走りやすいラインを確保するために体当たりしそうな勢いで幅寄せして来たのだ。
最初は私が真横にいるのが見えなかったのかと思ったが、2度3度と明らかな幅寄せをするのは悪意以外の何ものでもない。
「俺の方が速い 邪魔だから退け」 という態度がアリアリ。
君子危うきに近寄らず
コイツはヤバイ奴、と思ってその場はやり過ごしたのだけど、後ろから見てると今度は1コーナーで前車にプレッシャーを掛けて強引な抜き方をしている。
レースでもないスポーツ走行、而もお互いの技量も知らない者同士が同じコース上を全開で走っているのだ。 こんな信用できない奴とは走りたくないと思ったが、この時点で私はカチンと来ていた。
サーキットではお互いの居場所を確認しながら走るものだし、相手が格上だと思えばラインを開ける。 だが、いくら速い車両が居ても前車がコーナリングの姿勢に入って居れば、無理にインに入ったりしては成らない。
ところが奴はお構いなし。
オフィシャルは見ていないのだろうか?
これは間違いなく黒旗だろう。
暫くして再び奴と出会ってしまった。
後からではなく前方にだ。
なぜ前方にいるのだろう? クーリングしてるのか? と思ったが、私を発見した瞬間から奴は全開。 頭の中にあった蟠りがメラメラと燃えてきた。
追走して最初に幅寄せされたバックストレート。 全開で最終コーナーにさしかかった所で奴の車から白煙。 ブレーキをロックさせたなと思ったが、瞬く間に白煙が広がった。
ただ事ではない状態が解った時には既に手遅れ。
奴の車、エンジンブローだ。
背後にいた私は奴のオイルを全て浴びてしまったばかりでなく、白煙で前が見えない。 ブレーキに足を載せて減速の処置をしたが、全く減速できないまま車はスピン体制で為す術無し。
奴のインテRに突っ込むのか、スポンジバリアにめり込むか。
減速できていないので助からないだろう。
やがて(と言っても一瞬だろう)白煙が薄れたと思ったらスポンジバリアが見えた。 私の車はスピンしながらスポンジバリアに何度も擦りながら止まった。
右のドアミラーが折れてる。
全損か?
全身を襲う脱力感。
車はコース上を後ろ向きで止まった。
エンジンも止まっている。
もう少し何かできたのではないかと悔やむ。
後続車が突っ込んでくるかも知れないので、コース上の安全を確認しながらピットレーンへ自走出来るか? エンジンを掛けてみると掛かった。 油温・油圧・水温正常。
失意に包まれながらパドックにもどり、車はグチャグチャだろうと思いながら車外に出て状態を確認。
折れた右ドアミラー以外に被害は?
カウルの右側面についているウインカー付近に若干のヒビがあるが、割れては居ないようだ。 スポンジに擦った擦り傷が右側を中心に大量に付いてしまったが、奇跡的に大破はしていない。
ミラーもボールジョイントから先の所が破損しただけで、根本からもぎ取られている訳ではない。 中のスプリングが伸びてしまっていてミラーに少し傷が付いている程度で、再利用さえ出来そうだ。
車が比較的無事だと解ると、奴に対して熱くなってしまった自分に自己嫌悪。
危ない奴には近づいてはいけないのだ。
危険な行為に対する抗議を事務所に報告しに行こうと思ったが、自分の車両を見ている内に脱力感に支配されて気力が無くなってしまった。
ブローしたインテは最終コーナー出口に佇んでいるらしい。
暫くしておやじRのA氏が来た。「インテの奴、ざまーみろだよね。 kmpsさんを幅寄せしてるの見て頭に来たよ」
「実は私、巻き込まれたんですよ」 と言うと、彼の態度は一変。 思いっきり驚いて居たが、車の被害を見て安堵した様子。
「しかし、あんなヒドイ奴は始めて見たよ」 と彼。 私も同感。
もう奴には二度と会いたくないしサーキットに来て欲しくない。
今月は他にも色々有るのだが、これ以上書く気力が無いのでご勘弁を。
【クラッシュシーン動画】